以前、自分の店だから本気で改善できる — 自社サービスを使い倒す営業のかたち という記事を書きました。私たちのメタバース空間を、デモのための作り物ではなく、自分たちが毎日使い続けている本物のモデルルームとしてお見せする、という営業の姿勢についての話でした。
今日はその続きです。モデルルームを案内した、その先のこと。つまり、その空間を“貸す”という事業のかたちについて書きます。
モデルルームの、その先
不動産になぞらえると、前回の話は「モデルルーム」のところで止まっていました。誰も住んでいない完成予想図のパンフレットではなく、実際に暮らしのある部屋を案内する。その場の手触りを、嘘なくそのまま見てもらう。そういう見せ方の話です。
けれど、モデルルームを見て回ったあとに何が起きるかといえば、人はそこで「自分も借りたい」と思います。案内された部屋がよかったから、似たような部屋を自分のものとして持ち、そこで暮らしを始めたい、と。
物理の不動産では、これはあまりに当たり前の流れです。誰かが土地や建物を持っていて、それを別の誰かに貸す。借りた人はそこに住んだり、店を開いたりして、自分の何かを営む。賃貸があり、テナントがある。場を持つ人と、場を借りて使う人がいて、その間にやり取りが成り立っている。
私たちが関心を持っているのは、この当たり前のことが、メタバースの中でも同じように成り立つのか、という一点です。
メタバースの中で「部屋を借りる」ということ
私たちのメタバース rezona には、すでに「ルームレンタル」という機能があります。利用者がオーナーとして、自分の部屋——空間を借り、持つことができる仕組みです。
ここで少しだけ手触りの話をします。借りた部屋には、名前を付けられます。それはただの飾りの名前ではなく、その部屋にたどり着くための識別名、いってみれば住所のようなものです。だから自由に決められると同時に、他の誰かの部屋とぶつかってはいけない。同じ名前が二つあると、どちらの部屋のことか分からなくなってしまうからです。私たちは、付けたい名前がもう使われていないかをきちんと確かめる仕組みを用意しています。
地味な話に聞こえるかもしれません。けれど、これは不動産でいえば住所が一つに定まることと同じで、「貸す」という営みが成り立つためのいちばん基礎にある部分です。誰のものでもない曖昧な場所を、ある人の部屋として確かに切り出す。その人が「ここは私の部屋だ」と言えるようにする。場を貸すというのは、まずこの「確かに切り出す」ところから始まるのだと思います。
借りた部屋を、自分の店にする
借りた部屋を、人はどう使うのか。住むだけでなく、そこで何かを営みたくなるはずです。
私たちが面白いと感じているのは、借りた部屋がそのまま「自分の店」になりうることです。たとえば、実在の居酒屋——秩父の小さな酒場でも、名の知れたチェーンでも——のメニューを持ったAIの店員を、その部屋に置くことが、いまや現にできるようになっています。借りた空間の中で、お客を迎える店員が立ち、メニューについて答える。部屋を借りることと、そこを店にすることが、地続きにつながっているのです。
これは、賃貸とテナントの関係によく似ています。空っぽの区画を借りて、そこに自分の看板を掲げ、自分の商いを始める。物理の街で当たり前に起きてきたことが、3D空間の中でも形を持ち始めている。モデルルームを案内した先に、ただ眺めるだけでない「営む場」が用意されている、ということです。
区画を貸し、そこだけは店主のものにする
そして私たちは、もう一歩先の構想を準備しています。一つの空間の中に“店の区画”を設け、その区画の中だけで店主が権限を持てる基盤です。
物理の街を思い浮かべてください。一つの商店街やビルがあって、その中にいくつもの店が並んでいる。建物全体を管理しているのは大家ですが、それぞれの区画の中では、店主が自分の裁量で什器を並べ、商品を置き、店をつくっていく。区画の外には手を出せないけれど、自分の区画の中では自分が主だ——この、権限が場所できれいに区切られている感覚が、賃貸やテナントという仕組みを成り立たせています。
メタバースの中でも、同じことをやろうとしています。空間全体を私たちが場として保ちながら、貸し出した区画の中では、借りた人がその範囲に限って管理の権限を持てる。エリアを限定した管理権、とでも呼ぶべきものです。これがあると、「広い空間の片隅を借りて、自分の小さな店をひらく」ことが無理なくできるようになります。場を貸す側と借りる側の境界が、空間の中に引かれるわけです。
境界を設計する、というのは私たちの会社が大事にしている言葉ですが、こういう場面でその言葉は具体的になります。どこまでが大家の領分で、どこからが店主の領分なのか。その線をていねいに引くことが、貸す事業を支える設計そのものなのだと感じています。
「広く無料で貸す」のではなく
ここで、前回より前に書いた別の考察のことに触れておきたいと思います。あるメタバース系のプラットフォームが、誰にでも無料で広く場を貸す、というモデルで立ちゆかなくなった、という話を書きました。
私たちが目指しているのは、その逆の方向です。誰にでも、無料で、広く——ではなく、価値に見合う相手に、自分たちがコントロールできる場を、きちんと貸すこと。数を追って薄く配るのではなく、貸した相手がそこで何かを育てられるだけの、確かな場所を渡すこと。
そしてこのとき、いちばんの土台になるのは、場のコントロールを自分たちの手元に握れているかどうかです。借りてもらう部屋が、他人の都合でいつ消えるか分からない場所の上に建っていたら、貸すという約束そのものが揺らいでしまう。私たちが自社でホスティングする形にこだわってきたのは、結局のところ、安心して人に貸せる場を持つためでもあったのだと、いまになって思います。簡単には消えない場所だからこそ、その一区画を誰かに託すことができる。
場を持ち、貸し、育ててもらう
物理の世界では、ずっと前から繰り返されてきたことがあります。誰かが場を持ち、それを別の誰かに貸し、借りた人がそこで暮らし、店をひらき、街を育てていく。大家がいて、店子がいて、その間に信頼と約束があって、街は少しずつ形を変えながら続いてきました。
私たちが知りたいのは、それがメタバースの中でも本当に起きるのか、ということです。自分たちでコントロールできる空間を持ち、その一部を貸し、借りた人がそこを自分の店として育てていく。部屋に名前を付け、店員を立て、お客を迎える。物理の不動産で当たり前だった一連の流れが、3D空間の中でも同じ温度で回り始めるのかどうか。
答えはまだ全部は出ていません。私たちはいま、ルームレンタルという最初の一歩を踏み出し、区画を貸す基盤を準備している、その途中にいます。けれど、モデルルームを案内する段階から、その部屋を貸して育ててもらう段階へ——事業のかたちが一段進もうとしている手応えは、確かにあります。
場を持つこと。それを誰かに貸すこと。借りた人がそこで何かを営むこと。当たり前のようでいて、自分たちの手で場をコントロールできて初めて成り立つ、この素朴な営みを、メタバースの中で地に足のついた形にしていけたらと考えています。
Boundary LAB は「境界を越える体験を設計する」会社です。自社ホスティングのメタバース rezona を運営しています。空間づくりのご相談は X(@shuuuuuuvuu)の DM へ。私たちについては Boundary LAB について もどうぞ。