2026-05-29

メタバースは死んでいない。「無料で場を貸す」モデルが終わっただけだ

9年続いたメタバース系プラットフォームの撤退発表が示す、3D空間ならではのコスト構造と「消えない・自分でコントロールできる場」の価値を考察。

#業界考察#空間設計

2026年7月、9年にわたって多くのクリエイターに使われてきたメタバース系プラットフォーム spatial.io が、無料および個人向けプランと「3Dワールドのホスティング」を終了し、法人向けのサービスだけを残すと発表しました。長くこの分野を支えてきたサービスだけに、受け止めた人も多かったと思います。

注目したいのは、その理由を運営自身がはっきり言葉にしたことです。「オープンなマルチプレイヤー3Dワールドを誰でも使えるようにホスティングし、規模を広げていくコストが上がり続けた。価格改定も、プランの作り直しも、パートナーと組む方法も検討したが、独立した開発者や小さなスタジオに向けて成り立つモデルを見つけられなかった」。

これは単なる一サービスの終了ではありません。運営自身による、ビジネスモデルがうまくいかなかったという率直な告白として、かなり重い意味を持っています。

なぜ「広く無料で貸す」と苦しくなるのか

背景には、3D空間ならではの構造があります。

普通のWebサービスは、ユーザーが増えるほど一人あたりのコストが下がっていきやすい。一度作った仕組みを大勢で共有できるからです。だから「まず無料で広く配って、後で一部に課金してもらう」という戦い方が成立します。

ところが、人が同じ空間に集まってリアルタイムに動き、声をやり取りする3Dワールドでは、この前提が崩れます。同じ部屋にいる人数が増えるほど、「誰がどこにいて、何をしているか」を全員に伝え合う処理や、音声をさばく負荷が、人数の増え方以上の勢いで膨らんでいくのです。つまり、無料で広く開放するほど赤字が深くなりやすい。「使われれば使われるほど苦しい」という、ふつうの感覚とは逆の構造を抱えていたわけです。

メタバースが終わったわけではない

ここで早合点したくないのは、「やっぱりメタバースはダメだった」という結論ではない、ということです。終わりが見えてきたのは、メタバースそのものではなく「無料で、広く、誰にでも場を貸す」という配り方のほうです。

むしろ生き残る方向は見えてきています。価値に見合った対価を払える相手にきちんと届けること。そして、場のコントロールを運営側がしっかり握れること。spatial が最後に残したのが法人向けサービスだったのも、この線に沿っています。9年かけて積み上げた技術と知見が無駄だったわけでは、決してありません。

使う側・作る側への教訓

他人の土地に建てた家は足場が外れると消えるが、自社でコントロールできる場は手元に残る、という対比図

この出来事は、3D空間を「使う側・作る側」にも静かな教訓を残しました。

自分が時間をかけて作った世界も、それを預けている場所が運営の都合で閉じれば、一緒に消えてしまうことがある。いわば、登っていた梯子を外されるリスクです。これは特定の会社が悪いという話ではなく、人の土地に建てる以上どこでも起こりうることです。

だからこれからは、作ったものを自分の手元に残せるか、場そのものを自分でコントロールできるか —— ここが3D空間づくりの分かれ目になっていくのだと思います。

私たち Boundary LAB が自社でホスティングする形のメタバース(rezona)に取り組んでいるのも、「簡単には消えない、自分でコントロールできる場」をつくりたいという考えからです。今回の発表は、その判断の意味を静かに裏づけてくれたように感じています。

その後、自分で場を持つことのもう一つの宿題——人が集まるほど重くなる空間をどう支えるか——についても考えを書きました。人が集まるほど重くなる場所を、どう支えるか で続けています。

Boundary LAB は「境界を越える体験を設計する」会社です。自社ホスティングのメタバース rezona を運営しています。空間づくりのご相談は X(@shuuuuuuvuu)の DM へ。私たちについては Boundary LAB について もどうぞ。